架空の街 ヨクナパトーファ郡ジェファソン

1つのことにこだわると,それを続ける傾向にあります。
それは性格として良いのか悪いのかわかりません。
「架空の町」つながりで,前回は小説にだけ登場する町
「ワインズバーグ・オハイオ」について書きました。
シャーウッド・アンダスンのこの作品に大きく影響を受けたのが
同じアメリカ人作家,ウィリアム・フォークナーだと言われています。
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フォークナー家は代々 Falkner という名前でしたが
彼は,「いつも人から u を入れて書かれる」ことから
William Faulkner の名前でたくさんの小説を書きました。

しかし,彼の名前はそれほど知られてはいませんでした。
まあ,彼の作品はけっこう難解なんです。

そんな彼を一躍有名にしたのが,マルカム・カウリーが編集した
「ポータブル・フォークナー」。これは私が大学時代に愛読した本。
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この本には,彼の短編や長編の一部が収められていますが
1946年の時点で,すでに彼の本のほとんどが絶版だったそうです。

しかし,この本によって作家フォークナーは再発見され
1950年にはノーベル文学賞を受賞します。

彼の作品群のほとんどがヨクナパトーファ郡という
彼が考え出した架空の土地を舞台にして書かれています。

Yoknapatawpha County という,英語的でないこの名前は
先住民の言葉から来ていると考えられます。
フォークナーの故郷,ミシシッピ州にあるとされています。

アメリカ南部の大河ドラマ的な長編小説「アブサロム,アブサロム!」
には,フォークナーによる地図がついています。
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地図の下には,こんな文が載っています。

Jefferson, Yoknapatawpha Co., Mississippi
Area, 2400 Square Miles -
Population, Whites, 6298; Negroes, 9313
WILLIAM FAULKNER, Sole Owner & Proprietor


ミシシッピ州 ヨクナパトーファ郡 ジェファスン
面積 2400平方マイル
人口 白人6298人 黒人9313人
ウィリアム・フォークナー ただ一人この地を所有す


ジェファスンは郡の都の名前です。
なんとこの小説には,この地図以外に,作家による
小説の年表や登場人物の解説まで巻末についているんですよ。

このヨクナパトーファ郡を舞台に書かれた長編小説は実に多数。
その中では,サートリス家、コンプソン家、スノープス家などの
実に多くの人々が何度も再登場します !

これは,この架空の土地を舞台にした長編小説。

『サートリス』"Sartoris"(1929年)
『響きと怒り』"The Sound and the Fury"(1929年)
『死の床に横たわりて』"As I Lay Dying"(1930年)
『サンクチュアリ』"Sanctuary"(1931年)
『八月の光』"Light in August"(1932年)
『アブサロム,アブサロム!』"Absalom, Absalom!"(1936年)
『征服されざる人々』"The Unvanquished"(1938年)
『村』"The Hamlet"(1940年)
『行け、モーセ』"Go Down, Moses"(1940年)
『墓地への侵入者』"Intruder in the Dust"(1948年)
『町』"The Town"(1954年)
『館』"The Mansion"(1959年)
『自動車泥棒』The Reivers""(1962年)


1946年に「ポータブル・フォークナー」が世に出たときに
フォークナーはこんな地図も作っています。
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多くの作品名(とその舞台)を見つけることができます。
赤で囲んだもの以外にも,短編小説の名前が見つかります。
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私は全作品を読んでいるわけでもありませんが
ベスト3をあげるとしたら,間違いなく以下の3つ。

『響きと怒り』"The Sound and the Fury"(1929年)
『八月の光』"Light in August"(1932年)
『アブサロム,アブサロム!』"Absalom, Absalom!"(1936年)


奴隷制度と南北戦争を経たアメリカ南部。
南部とは何なのか? 人間とは何なのか?

それぞれの作品は日本語訳でも読みづらいところもあります。
急に文章が,個人の意識の流れを描くこともあります。

1行を理解するのに1時間かかるような読書もまた
いいのではないかと思っています。

そんなフォークナー,1955年(昭和30年)に来日しています。
長野で行われたセミナーでは,自作について多く語ったそうです。

これには GOMEIKAN と書いてあります。
調べてみると長野では有名な「五明館」という老舗の旅館で
現在はレストラン・・・でいいのでしょうか?
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これは,善光寺の門前町でしょうか?
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長野」でのセミナーは FAULKNER AT NAGANO
という本にまとめられていますが,私は持っていません。
(おそらくプレミアもの)
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なんか,マニアックになりました。
でも,いつかはフォークナーについて書きたいと思っていました。

彼の一連の作品群は
「ヨクナパトーファ・サーガ」Yoknapatawpha Saga と呼ばれています。

架空の土地で広げられる人間模様。
シャーウッド・アンダスンから引き継いだこの手法。

彼が世界中の作家に与えた影響ははかり知れません。
ノーベル賞を受賞した作家だけでも,マルケスや大江健三郎さん・・・。

再評価されてもいい作家だと思います。

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