「八十日間世界一周」の旅 (7)エリザベス・ビスランドが見た日本

前回,「八十日間世界一周」の旅をネリー・ブライと競った
エリザベス・ビスランドが書いた本から富士山についての文章と
後の小泉八雲,ラフカディオ・ハーンとの交流について書きました。

時間がなくて,エリザベスが描いた日本については書けなかったので,
彼女の旅行記「In Seven Stages: A Flying Trip Around the World」
から,少し引用したいと思います。
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エリザベスは横浜港に着き,グランド・ホテルに宿をとります。
After dinner we are lucky enough to fall into the hands of Lieutenant McDonald. He is a paymaster in the American Navy, and has been here two years. He knows the place well, and offers to be our guide to-night through the native town. In the flowery hotel-court we find our 'rikishas standing in a row in the moonlight, each with one of the pretty lanterns swinging.

夕食後,私たちは幸運にもマクドナルド大尉に導いてもらいました。彼はアメリカ海軍の金庫番であり,ここに2年います。この地には詳しく,この町の今夜のガイドを申し出てくれました。花がたくさん飾られたホテルの庭には月明かりに照らされて私たちの人力車が横一列に並んでいました。それぞれには,かわいい提灯が一つずつついていました。


明治の横浜。(明治と言っても幅がありますが。)
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日本の家屋については,こう記述しています。

The houses, delicate little match-boxes of thin, unpainted wood, fifteen or twenty feet high, and divided into two stories, crowd close together, and give upon the street. The fronts of these houses – indeed, the greater part of the walls all around, are sashes of many tiny panes glazed with white, semi-transparent paper, through which the inner light shines as from a lantern; and the shop fronts are mere curtains of bamboo, rolled up during business hours, and let down when the shop is closed for the night.

細くペンキも塗られていない木でできた壊れそうな小さなマッチ箱のような家々は,高さが15~20フィート,2階建てで,それぞれが隣接して,通りに面しています。家の正面は,実際のところ家を囲む壁の重要な部分で,白く半透明の紙が貼られた多くの小さな碁盤のような窓枠がある戸です。その戸を通して室内のランタンの灯がもれています。店の正面には竹でできた小さいカーテンがあり,営業するときは巻き上げ,夜に店を閉めるときは下ろします。


これは障子窓のことと,店にかけてある「すだれ」のことでしょう。

写真はイメージです。
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買い物もしたようです。

We have been instructed not to pay more than half that is asked, but the prices are so delightfully low that we give them joyfully, and without haggling. We wander from shop to shop, received with an air of affectionate friendliness everywhere.

私たちは言われた値段の半分以上を払ってはいけないと教えられています。でも値段はうれしくも安いので,値切ることなく喜んで払います。私たちは店から店へと渡り歩き,どこへ行っても優しい親しみをもって迎えられました。


明治の横浜の商店街。
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たった36時間の日本滞在で,ネリー・ブライのように鎌倉見物とは
いきませんでしたが,横浜から東京に足を延ばしたようです。

We are in the train going to Tokio. (中略) It is a funny train, as absurdly toy-like and doll-housey as is everything else in this country; and our destinies are committed to-day into the hands of a sweet-mannered gentleman in a gray kimono and an American hat, who is to guide us amid the beauties of his country's capital.

私たちは東京へ向かう列車に乗っています。(中略)おもしろい列車です。この国のものは予想していた以上におもちゃのようで人形の家のようです。今日私たちの運命は灰色の着物にアメリカ製の帽子をかぶった優しいふるまいの紳士に委ねられているんです。彼は自国の首都の美しさを私たちに案内してくれます。


東京ではアメリカ公使の邸宅を訪ねたりしました。
こんな文章もあります。

At the end of an avenue of tall gray stone lanterns – where lights shine during the great religious festivals – stands the tomb of Ieymitsu, the son of Ieyasu, the great shogun who usurped supreme authority and reduced the mikado to the position of a primate.

宗教的な祭りの間に灯される背の高い石燈籠が並ぶ通りの端に建っているのは家康の息子,家光の墓です。家康は戦によって最高の権力を勝ち取った偉大な将軍で,ミカドを単なる宗教の長の地位にまで下げました。


正確には家光は家康の孫にあたります。

36時間滞在の日本を離れることになります。

Then the railroad again, . . . a broad, yellow moon shining on the ever-present Fujiyama, . . . regretful farewells to the charming Americans and Lieutenant McDonald, and then the visit to fairyland is over. . . . I must pass on in my swift course, and be ready for new sights and friends.

再び列車に乗車すると,いつも見えている富士山を照らす黄色い月。魅力的なアメリカ人たちやマクドナルド大尉とも残念ながらお別れです。そして,このおとぎの国の訪問も終わりです。私は急いで(次の目的地の)新しい景色と友人のために準備をしなくちゃ。



日本のことを fairyland 「おとぎの国」「妖精の国」だなんて
好印象です。


ニューヨークに戻ってきっとエリザベスは友人のラフカディオ・ハーン
おとぎの国の話をしたことでしょう。
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後の小泉八雲,ラフカディオ・ハーンが日本に対する思いを深くしたことは
このあたりからも推測されます。

ラフカディオ・ハーンについては来週書く予定です。

この記事へのコメント

2017年02月25日 09:27
おはようございます。

 彼女の紀行文は読んだことが無かったので、大変興味深く拝見しました。
 「何もかもが小さくて、まるでドールハウスみたい!」というのは、当時日本にやって来た欧米人の共通する感想だったようです。いまでもかな(笑)。

 当時の外国人たちは、原則定められた地域しか出歩くことが出来ませんでしたし、滞在時間も短かったので、エリザベスの場合は好印象だけを抱いて帰国したのかもしれません。
 対して、日本の「奥地」へ長旅をしたイザベラ・バードは、良い感想も述べていますが、結構辛辣な感想もたくさん残しています。
 例えば横浜については、『横浜はどう見ても立派とは言えない。これほど雑然とした都市は他に例がない。』と述べていますし。メインストリートを外れた日本人街は、『日本人街はみすぼらしく美的価値に乏しく、勤勉なのに貧しいとしか言えない様相を呈している。』と、さんざんです。
 エリザベスよりも十年ほど前の日本であることを割り引いても、当時の日本の欧米との差を如実に知らされる内容です。
2017年02月25日 21:23
こんばんは!
愈々・・ラフカディオ・ハーン氏の
登場ですね。
来週が・・待ち通しいです(*^-^*)
2017年02月26日 06:30
あきあかねさん
おはようございます。イザベラ・バードの日本の感想ありがようございます。この時代の日本が西洋人の目にどう映ったか,おもしろそうです。エリザベスの文章からもけっこう多くの外国人が横浜や東京に住んでいることが感じ取れます。当時,ブログやツイッターがあったらなんて書いたんでしょう(笑)。
2017年02月26日 06:32
みなとさん
おはようございます。来週はラフカディオ・ハーンについて少し書く予定ですが,ハンカチのご用意を(笑)。

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