浮世絵に見るお正月(4) 初弾きと狆

このシリーズも今日が最後です。仕事も始まり,正月気分はもう終わりです。
楽器をされる方は,もう「初弾き」をしましたか?

これは歌川国芳の「御奥乃初弾」琴(筝)を左側の男性が弾き初めをしています。
周りの女性たちの様子を見るとどこかの大名の武家屋敷でしょうか。

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よく見ると,この男性目をつぶって歌っています。だいぶ気合が入っているのか,こめかみには血管が浮いていますよ。
この人は「検校」(けんぎょう)という盲目の最上級の官職。

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みんなでニューイヤーコンサートを楽しんでいるようですが,上座の一段高いところに座っているのは奥方か姫君

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でも,どうしても気になるのは中央の犬ですよね。

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御殿女中でさえ畳に座っているのに,座布団に座っています。
しかも首にはふりふりしたものまでつけて着飾っています。

この犬は狆(ちん)
祖先は大陸だと考えられる日本原産の愛玩犬です。

江戸時代,大奥での飼育が発端となり,大名が競って飼い始めました
狆専門の医者がいたり,ブリーダーもいたそうです。

1853年,黒船で来航したペリー数頭アメリカに持ち帰り,そのうち2頭がイギリスのビクトリア女王に献上されたとか。

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これはイギリスの皇太子アルバートの妃アレクサンドラとパンチと名づけられた狆。(ペリー来航から40年後の1893年ごろ)

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ビクトリア女王に献上された狆が繁殖されて広まったようです。

ペリー以降,開国後も,狆はアメリカやヨーロッパに輸出されました。
貴重な「輸出品」だったそうです。

今では Wikipedia には Japanese Chin としてしっかり項目が作られています。

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最後に,万延元(1860)年,日米修好通商条約を結ぶために幕府から派遣された新見豊前守と村垣淡路守の2人は,表敬のためペリーの自宅を訪れました。

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ペリーは亡くなっていましたが,彼らを迎えたのは奥さんのジェーンと娘,そして2頭の狆でした。

久しぶりにサムライを見た狆は喜んで「大いに悦び,踊ることきわまりなし」(柳川当清著「航海日記」)だったそうです。

2人がペリー宅を去るときは「別れをおしみ,跡をしたうそのさまは人のごとし」「われらにいたるまで落涙におよび」と涙の別れをしました。

この記事へのコメント

2023年01月07日 07:46
おはようございます。
 
 長い航海をして見知らぬ異国の地に赴いた新見豊前守と村垣淡路守の2人にとっては、人の情に勝るとも劣らない狆との別れ際が心に響いたのでしょうね。武士でありながらも「われらにいたるまで落涙におよび」というのが、なんか分かる気がします。
2023年01月07日 22:22
あきあかねさん
こんばんは。はじめは国芳の絵についてだけ書こうとしたのですが,狆について調べていたらいろいろなことがわかったのでペリーから派生したエピソードまで広げました。 ペリー宅の狆はサムライのことを覚えていて懐かしくなったのかなあ。あるいは日本でのしょうゆ味の味覚を思い出したのでしょうか。

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