「すべからく」考(3) 揺れ動くその意味
前回は,「すべからく~すべし」で「当然・・・するべきだ」の意味で使われたり,「すべからく~したまえ」では話者の強い意志を感じる例文を小説から見つけることができました。

ただ,前回の最後に書いたように,この「すべからく」の意味が原義とは違って使う例が見られるようです。

「大辞林 第3版」(平成18年・三省堂)より。

大辞林 第三版 - 松村 明
すべからく【須く】
(副) 〔漢文訓読に由来する語。「すべくあらく(すべきであることの意)」の約。下に「べし」が来ることが多い〕
ぜひともしなければならないという意を表す。当然。
「学生は—勉強すべし」
〔古くは「すべからくは」の形でも用いられた。近年「参加ランナーはすべからく完走した」などと,「すべて」の意味で用いる場合があるが,誤り〕
近年,「当然」ではなく「すべて」の意味で用いる例があり,それは間違いとあります。
このことについて,文化庁「言葉のQ&A」(「文化庁月報」平成24年7月号)では,以下のように答えています。
最近では「大辞林」が挙げている例のように,基本的な文型である「〜べし」「〜べき」の形をとらずに,「すべからく」を「全て」の意味で用いているケースが多く見受けられます。「すべからく」の「すべ」という音が「全て」の「すべ」と結び付いてしまうのも理由の一つかもしれません。
なるほど,「すべからく」の「すべ」という音が「すべて」を連想させているのですね。
同じく「言葉のQ&A」では,「国語に関する世論調査」の結果(平成22年)を載せています。
「学生はすべからく勉学に励むべきだ」という例文を挙げ,「すべからく」の意味を尋ねています。
結果は次のとおりです。
〔全 体〕
すべからく 例文:学生はすべからく勉学に励むべきだ。
(ア)「全て,皆」という意味・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・38.5%
(イ)「当然,是非とも」という意味(本来の意味)・・・・41.2%
(ア)と(イ)の両方・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5.2%
(ア),(イ)とは全く別の意味・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3.1%
分からない・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11.9%
わずかですが,本来の意味が「すべて」を上回りました。
〔年代別グラフ〕

年代別のグラフで見ると,60歳以上では,本来の意味ではない(ア)を選んだ人の割合の方が高くなっていますが,他の年代では,本来の使い方である(イ)が高くなっています。
本来は「当然」という意味が「すべて」ととらえられていることに関して,「すべ」という音の問題の他にもう1つ理由がありそうです。
世論調査で挙げた文,「学生はすべからく勉学に励むべきだ。」について・・・
「学生は,当然のこととして,勉学に励むべきだ。」という文意からすれば,「全ての学生は,勉学に励むべきだ。」ということも言えることになり,意味的につながってしまうのです。
このように,「すべからく」は,意味的にも「全て,皆」と受け取られやすいところがあると言えそうだと文化庁は分析しています。
「コトバンク」というサイトでは令和2年の調査結果が載っています。
当然,ぜひとも 54.8パーセント
すべて,みんな 32.1パーセント
最近では,本来の意味の使い方が増えているようです。
最後に,このことを考えるきっかけになったサザンオールスターズの「松田の子守唄」。
作詞・作曲は桑田さんですが,ボーカルは珍しくドラムの松田さんです。
「すべからく恋はいいもの」
桑田さんはどんな恋をしていて,この歌詞が出てきたんでしょうね。

ただ,前回の最後に書いたように,この「すべからく」の意味が原義とは違って使う例が見られるようです。

「大辞林 第3版」(平成18年・三省堂)より。

大辞林 第三版 - 松村 明
すべからく【須く】
(副) 〔漢文訓読に由来する語。「すべくあらく(すべきであることの意)」の約。下に「べし」が来ることが多い〕
ぜひともしなければならないという意を表す。当然。
「学生は—勉強すべし」
〔古くは「すべからくは」の形でも用いられた。近年「参加ランナーはすべからく完走した」などと,「すべて」の意味で用いる場合があるが,誤り〕
近年,「当然」ではなく「すべて」の意味で用いる例があり,それは間違いとあります。
このことについて,文化庁「言葉のQ&A」(「文化庁月報」平成24年7月号)では,以下のように答えています。
最近では「大辞林」が挙げている例のように,基本的な文型である「〜べし」「〜べき」の形をとらずに,「すべからく」を「全て」の意味で用いているケースが多く見受けられます。「すべからく」の「すべ」という音が「全て」の「すべ」と結び付いてしまうのも理由の一つかもしれません。
なるほど,「すべからく」の「すべ」という音が「すべて」を連想させているのですね。
同じく「言葉のQ&A」では,「国語に関する世論調査」の結果(平成22年)を載せています。
「学生はすべからく勉学に励むべきだ」という例文を挙げ,「すべからく」の意味を尋ねています。
結果は次のとおりです。
〔全 体〕
すべからく 例文:学生はすべからく勉学に励むべきだ。
(ア)「全て,皆」という意味・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・38.5%
(イ)「当然,是非とも」という意味(本来の意味)・・・・41.2%
(ア)と(イ)の両方・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5.2%
(ア),(イ)とは全く別の意味・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3.1%
分からない・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11.9%
わずかですが,本来の意味が「すべて」を上回りました。
〔年代別グラフ〕

年代別のグラフで見ると,60歳以上では,本来の意味ではない(ア)を選んだ人の割合の方が高くなっていますが,他の年代では,本来の使い方である(イ)が高くなっています。
本来は「当然」という意味が「すべて」ととらえられていることに関して,「すべ」という音の問題の他にもう1つ理由がありそうです。
世論調査で挙げた文,「学生はすべからく勉学に励むべきだ。」について・・・
「学生は,当然のこととして,勉学に励むべきだ。」という文意からすれば,「全ての学生は,勉学に励むべきだ。」ということも言えることになり,意味的につながってしまうのです。
このように,「すべからく」は,意味的にも「全て,皆」と受け取られやすいところがあると言えそうだと文化庁は分析しています。
「コトバンク」というサイトでは令和2年の調査結果が載っています。
当然,ぜひとも 54.8パーセント
すべて,みんな 32.1パーセント
最近では,本来の意味の使い方が増えているようです。
最後に,このことを考えるきっかけになったサザンオールスターズの「松田の子守唄」。
作詞・作曲は桑田さんですが,ボーカルは珍しくドラムの松田さんです。
「すべからく恋はいいもの」
桑田さんはどんな恋をしていて,この歌詞が出てきたんでしょうね。
この記事へのコメント
「すべからく」を「全ての」の意味で使う誤用は私の学生時代から有りましたので、相当古いと思います。やはり、音的にも、また『意味的にも「全て,皆」と受け取られやすいところがある』からだと思います。
でも、最近は正しい方に戻しているんですね。何故なんでしょうね? 「松田の子守歌」だけがその理由ではないでしょうね。
おはようございます。
本来の意味とは違って「すべて」の意味での使用の背景にはやはり「すべ」と言う音と意味の重複があるのでしょうね。私も本来の使い方が増えているのは不思議でした。もう和服文化には戻れないように,こういう言葉の使い方も一度崩れると戻れないと思うんですが。1つ理由があるとすれば,「すべからく」自体の使用頻度が低いということでしょうか。