素数ゼミ(3) セミを表す英語
過去2回,素数ゼミについて書いてきました。前回はボブ・ディランがこの素数ゼミのことを歌った曲「ぜみが鳴く日」について書きました。
New Morning (Reis) (Dig) - Dylan, Bob
この曲の原題は「Day of the Locusts」。
記事が長くなると思い,前回は控えましたが,セミって cicada じゃなかったっけ?
cicada
an insect that lives in hot countries, has large transparent wings, and makes a high singing noise
(暑い国に生息し,大きく透明な翅をもち,甲高い騒音で鳴く昆虫)
英語圏の人にはあの鳴き声は noise のようです(笑)。
ボブ・ディランが使っているのは・・・
locust
an insect that lives mainly in Asia and Africa and flies in a very large group, eating and destroying crops
(主にアジアやアフリカに生息し,非常に大きな集団で飛び作物を食べ尽くす昆虫)
これって旧約聖書以来人類を悩ます「イナゴ」(蝗)の種じゃないの?
ジーニアス英和辞典ではこうあります。
locust
①イナゴ,バッタ
②(米語)セミ(cicada)
アメリカでは locust は「セミ」の意味でも使うんですね。
では,芭蕉が詠んだ名句
閑さや岩にしみ入蝉の声
(しずかさやいわにしみいるせみのこえ)
はどのように英訳されているんでしょう?
山形の立石寺で詠んだこの句は「おくのほそ道」の頂点にあり,この句を境に前半,後半に分けてもいいと思っています。
(写真は2022年秋に撮影。セミはいませんでしたが。)
ヘレン・クレイグ・マッカラ(Helen Craig McCullough)訳。
アメリカの日本古典学者(1918-98)。
Ah, tranquility!
Penetrating the very rock,
a cicada's voice
アーサー・ビナード(Arthur Binard)訳。
1967年アメリカ生まれの詩人,俳人。広島在住。
もしも、詩があったら (光文社新書) - アーサー・ビナード
Up here, a stillness――
The sound of cicadas
Seeps into the crags
上記の2人は「閑けさ」「しみ入る」の訳し方は異なりますが,「セミ」については cicada を使っています。
前者は単数,後者は複数としているところはおもしろいところです。
そして,亡くなる前に日本国籍を取得したご存じドナルド・キーン訳。
(キーン・ドナルド訳)
ドナルド・キーン自伝 増補新版 (中公文庫) - ドナルド・キーン, 角地幸男
How still it is here--
Stinging into the stones,
The locusts' trill.
キーン氏は「セミ」を locust の複数として訳しました。
このあたりの明確な違いはよくわかりませんが,イナゴには集団のイメージがあるため,ボブ・ディランもキーン氏の頭の中には「集団のセミ」のイメージがあったのではないでしょうか。
New Morning (Reis) (Dig) - Dylan, Bob
この曲の原題は「Day of the Locusts」。
記事が長くなると思い,前回は控えましたが,セミって cicada じゃなかったっけ?
cicada
an insect that lives in hot countries, has large transparent wings, and makes a high singing noise
(暑い国に生息し,大きく透明な翅をもち,甲高い騒音で鳴く昆虫)
英語圏の人にはあの鳴き声は noise のようです(笑)。
ボブ・ディランが使っているのは・・・
locust
an insect that lives mainly in Asia and Africa and flies in a very large group, eating and destroying crops
(主にアジアやアフリカに生息し,非常に大きな集団で飛び作物を食べ尽くす昆虫)
これって旧約聖書以来人類を悩ます「イナゴ」(蝗)の種じゃないの?
ジーニアス英和辞典ではこうあります。
locust
①イナゴ,バッタ
②(米語)セミ(cicada)
アメリカでは locust は「セミ」の意味でも使うんですね。
では,芭蕉が詠んだ名句
閑さや岩にしみ入蝉の声
(しずかさやいわにしみいるせみのこえ)
はどのように英訳されているんでしょう?
山形の立石寺で詠んだこの句は「おくのほそ道」の頂点にあり,この句を境に前半,後半に分けてもいいと思っています。
(写真は2022年秋に撮影。セミはいませんでしたが。)
ヘレン・クレイグ・マッカラ(Helen Craig McCullough)訳。
アメリカの日本古典学者(1918-98)。
Ah, tranquility!
Penetrating the very rock,
a cicada's voice
アーサー・ビナード(Arthur Binard)訳。
1967年アメリカ生まれの詩人,俳人。広島在住。
もしも、詩があったら (光文社新書) - アーサー・ビナード
Up here, a stillness――
The sound of cicadas
Seeps into the crags
上記の2人は「閑けさ」「しみ入る」の訳し方は異なりますが,「セミ」については cicada を使っています。
前者は単数,後者は複数としているところはおもしろいところです。
そして,亡くなる前に日本国籍を取得したご存じドナルド・キーン訳。
(キーン・ドナルド訳)
ドナルド・キーン自伝 増補新版 (中公文庫) - ドナルド・キーン, 角地幸男
How still it is here--
Stinging into the stones,
The locusts' trill.
キーン氏は「セミ」を locust の複数として訳しました。
このあたりの明確な違いはよくわかりませんが,イナゴには集団のイメージがあるため,ボブ・ディランもキーン氏の頭の中には「集団のセミ」のイメージがあったのではないでしょうか。
この記事へのコメント
また先走ってしまいました。すいませんm(__)m
今回3人の英訳が並べられて、大変興味深かったです。特に、『閑さ』と『しみいる』、この句の”肝”だと思うのですが、これをどう翻訳するのかが三人三様でとても面白かったです。(私の好みとしてはマッカラさんの訳です)
「cicada」なのか、「locust」なのかは、現地の生活の中で体験しないと分からないかもしれませんね。つくづく言葉は”なまもの”だと思います。
おはようございます。
自分でも書き足りないなと思う時はよく補足をしていただきありがとうございます。
今回,3人の訳を比べてみて,おもしろいのはセミだけでなく「しずけさ」も2種類,「岩」「しみいる」についてはすべて異なる英語を用いているところです。異なるニュアンス,訳者の受け取り方が興味深いです。