Haiku in English on Sunday (627) 石の上に 秋の鬼ゐて火を焚けり

日曜日は俳句の紹介と英訳。
前回,オフコースの「さよなら」について書きましたが,小田さんと鈴木さんのフォークデュオ時代の名曲に「秋の気配」があります。

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実際,まだまだ残暑厳しいのですが,ここ仙台では空気感に秋の気配を感じることがあります。
こちらが「秋の気配」(1977年)



さて,この夏に群馬県の鬼押出し園に行きましたが,「鬼」が出てくる不思議な秋の一句です。

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石の上に 秋の鬼ゐて火を焚けり  富沢赤黄男
(いしのうえに あきのおにいてひをたけり)

川名大著「現代俳句 上」より。

現代俳句 上: 名句と秀句のすべて (ちくま学芸文庫 カ 19-1) - 川名 大
現代俳句 上: 名句と秀句のすべて (ちくま学芸文庫 カ 19-1) - 川名 大

富沢赤黄男(かきお)は愛媛県出身の俳人(1902-62)。取り上げるのは2度目です。
早稲田大学政治経済学部卒。新興俳句の担い手として,現代詩の一分野としてのモダニズム俳句を追求しました。
一字空き(一字空白)の句はそんな試行錯誤の結果でしょう。

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今日の句は句集「蛇の笛」所収。初出は「琥珀」および「公論」の昭和16年9月号。「琥珀」では分かち書き(一字空き)にはなっていません。

石の上で秋の鬼が火を焚いている。
ただそれだけですが「鬼」とは何なんでしょう? なぜ火を焚いているのでしょう?


赤黄男は日中戦争で招集され,昭和15年,戦場でマラリアに罹り帰国しました。
帰国した赤黄男が見たのは,治安維持法違反の名目による俳人の検挙で,「京大俳句」を中心に多数の検挙者が出ました。
昭和16年に再度召集を受け入隊,翌年に北千島の守備に着きますが昭和19年に召集解除されます。

今日の句が書かれたのは戦場か,帰国し療養中のことか。

きっと鬼は作者の心象の表れ。
一面の焦土や瓦礫と化した戦場の光景が浮かんできます。
焚火をしている孤独な鬼は,閉塞した時代に戦禍の中で疲弊し魂を癒しているのです。

もしかすると,この焚火はお盆のころの「迎え火」かもしれませんし,「流灯」「火祭」なのかも。


では,英訳してみます。

石の上に 秋の鬼ゐて火を焚けり  富沢赤黄男

On a rock in fall
A goblin is sitting and
Making a bonfire



英語的に音節の5・7・5で書いてみました。
bonfire には「死」や「復活」の象徴的な意味があります。



この記事へのコメント

2024年08月25日 06:43
おはようございます。

 「秋」、「火」、「鬼」と並ぶと、私は「鬼灯(ホオズキ)」を思い浮かべます。ま、ホオズキ(果実)の季節は秋と言うよりも晩夏ですけど。
 ホオズキの赤い果実を、死者を迎える迎え火の「盆提灯」に見立て、盆棚には「鬼灯」がよく飾られます。ホオズキに充てる漢字の「鬼」は死者の意、「灯」は迎え火の事です。
 と、言う事で、この句、私にはお盆の風景の様に見えました。
2024年08月27日 06:04
あきあかねさん
おはようございます。
昨日はメンテナンスで開くことさえできませんでした。確かにお盆のような空気感を感じる不思議な一句です。
確かに鬼灯が裏テーマにあるのかもしれませんね。お勧めの特別展「和食」行ってきました! 記事にしました。