Haiku in English on Sunday (632) 曼殊沙華どれも腹出し秩父の子

日曜日は俳句の紹介と英訳。
車を走らせていると,道路沿いにはカンナやコスモス,すすきを同時に見ることができます。
これは10日ほど前の大崎市松山町の公園。コスモスが一面に咲いています。

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また,今年も猛暑だったせいか彼岸に咲くはずの彼岸花(曼殊沙華)がやや遅れて咲いています。

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曼殊沙華どれも腹出し秩父の子  金子兜太
(まんじゅしゃげどれもはらだしちちぶのこ)

この句は坪内稔典著「俳句いまむかし」をはじめ,いろいろな書籍・歳時記で取り上げられています。

俳句いまむかし - 坪内 稔典
俳句いまむかし - 坪内 稔典

金子兜太氏は埼玉県,まさに秩父の生まれ。大正・昭和・平成を生きた俳人(1919-2018)。
東大を経て日銀,そして従軍,戦後は日銀に戻ります。
戦後,前衛俳句の騎手として現れ,俳句界に不動の地位を築きました。

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これまでも彼の句は何度も取り上げました。

暗黒や関東平野に火事一つ
人体冷えて東北白い花盛り
彎曲し火傷し爆心地のマラソン
原爆許すまじ蟹かつかつと瓦礫あゆむ
どれも口美し晩夏のジャズ一団
霧に白鳥白鳥に霧というべきか
梅咲いて庭中に青鮫が来ている
朝寝して白波の夢ひとり旅


私は彼の著書のサイン本を持っています。彼の弟子筋の方からいただきました。

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今日の句はストレートな一句。
曼殊沙華が咲く中,秩父の子はみんな腹を出して遊んでいた。
昭和17年にはこの句はできあがっており,東京帝大の学生時代に帰省した時の一句のようです。

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それは彼の故郷,秩父への郷愁
でも,この句に惹かれるのは,こんな風景は秩父に限ったことではなく,日本中の昭和の子がこんな感じの子ばかりだったんですね。

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限定された場所を描きながら,それを普遍性に敷衍させることが文学の力だと思っています。


では,英訳してみます。

曼殊沙華どれも腹出し秩父の子  金子兜太

Red spider lilies
Every kid is showing his stomach
In Chichibu



早いもので金子氏が亡くなってから6年もたちます。
稲畑汀子さんとの俳句論バトルが懐かしいです。



この記事へのコメント

2024年09月29日 07:05
おはようございます。

 この「腹出し」は、「秩父の子」と共に「曼殊沙華」をも形容しているようですね。ほら、曼殊沙華って葉が無くて、地面から緑色の茎が長く伸びて、直に花のなっていますよね。”お腹丸出し”といった容貌です。

 彼岸花は、その特異な姿から、沢山の別名や地方名を持つ花です。私の祖母は「はっかけばな(たぶん、”葉欠け花”)」とか「墓場花」とか言っていましたし、東京では「幽霊花」と言う呼び方を聞きました。その所為か、私は子供の頃この花が嫌いでした。

 最近、ここ数年ですが、花屋さんで曼殊沙華に似た「リコリス」と言う花々を見るようになりました。紅色や黄色、白色等の細いリボン状の花で、やはり葉が有りません。
 「リコリス」は、学名の「ヒガンバナ属 (Lycoris)」から採ったもので、これらの園芸植物は彼岸花の仲間です。
 ですが、「リコリス」は私にとっては別な植物も想起させるのです。たぶん、先生もご存じだと思うのですが、欧米のお菓子にも「リコリス」と呼ぶものが有ります。どす黒い、細い紐状のグミのようなもので、それを円盤状に巻いた形のものも有ります。去痰作用があるとされ、民間療法でも用いられるので、欧米の小説や童話の本にも出て来ます。
 この「リコリス(licorice)」は「スペイン甘草(かんぞう)」を意味していまして、全く別の植物(マメ科カンゾウ属スペインカンゾウ)です。
 数年前、花屋さんでこの花の名札を見た時、最初にお菓子の「リコリス」を思い浮かべたのですが、どう見てもマメ科の植物には見えず、家に帰ってからネットで調べてしまいました。と言うのも「甘草」は薬用、食用植物ですが、ヒガンバナ属の植物は毒草だからでした。
2024年09月29日 09:44
あきあかねさん
おはようございます。特に触れませんでしたが,今回出典として書いた「俳句いまむかし」でも坪内稔典さんも「曼珠沙華は腹を出したように咲き」と書いています。この句は「腹出し」が「曼珠沙華」と「秩父の子」のどちらにもかかっていると読めます。
彼岸頃に咲くので「彼岸花」の名前の説の他に,毒性なので食べると「彼岸」つまりは「死」という意味の説もあるようです(笑)。笑っちゃいけないけど。
「曼珠沙華」は梵語で天上の花の意味で,季語としては墓地によく見られるので「死人花」「幽霊花」,他にも「天蓋花」「捨子花」「狐花」などの傍題があります。
彼岸花は「Lycoris radiata」とも呼ばれ,アメリカには1854年にペリー一行が持ち込んだようです。お菓子のリコリスは最近意識していないのであまり見ないかなあ。