幕末の外国人が見た富士山(3) ペリーとウィリアムズの原文

過去2回,黒船来航のペリー提督と首席通訳官のウィリアムズがどう富士山を描写したのか,日本語訳から引用しましたが,原文が何とか見つかりましたので,紹介したいと思います。

気になるのは,2人とも「富士山」を「Fusi」または「Mount Fusi」と書いています。
当時の日本人の発音がそうなのでしょうか?

まずはペリー提督から。

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Narrative of the Expedition of an American Squadron to the China Seas and Japan

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日本語訳は「ペリー提督日本遠征記」。原文の後に前回の日本語訳をつけます。

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and the atmosphere was so clear that every object appeared with great distinctness, and there was a picturesque view disclosed to the eye on all sides. The peaked summit of Fusi rose, with great distinctness, above the high land on the western coast, and ten miles ahead the bold cliff, which guards both sides of the entrance to the inner harbor leading to Yedo, were readily discernible.

大気は澄みわたり,あらゆるものがくっきりと見え,四方の景色が絵のように眼前に展開し,富士の高嶺が鮮やかに西岸の高地の上にそびえ立ち,そして10海里先の,江戸に通ずる内港入り口の両側を守っている険しい崖もはっきりと見てとれた。


Nothing could be seen of the great land-mark—the lofty peak of Fusi—which, by the way, was generally more plainly visible toward the evening than during the day, and was often observed beautifully distinct at sunset, when its summits would glow with a rich halo of crimson light.

あの偉大な陸標――富士の高嶺――もまったく見えなかった。ちなみに,富士山は普通日中より夕方になるにつれて鮮やかに見えてくる。日暮れどきの富士はとりわけ美しく,山頂が夕陽の後光で深紅に輝くのである。


そして,これが随行画家が描いた富士山(Fusi)。

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続いて通訳官サミュエル・ウェルズ・ウィリアムズ。

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その随行記,A Journal of the Perry expedition to Japan

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日本語訳「ペリー日本遠征随行記」

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and across the Bay of Kawatsu between Capes Izu and Sagami almost no boats were seen ; one small craft seeing us coming up rapidly took in sail, turned about and pulled away for Vries Island as if its existence depended on their haste, doubtless to comfort the inhabitants with tidings of the happy luck they had had in not being run over last night. Mount Fusi rose In the distance be- yond Cape Izu, with its bifurcated peak, accompanied by many other less elevated points, but all of them concealed more or less with clouds ;

伊豆岬と相模岬(剣ヶ崎)との間にある河津湾に差しかかった。ここでは,ほとんど小船が見られなかった。われわれを認めた一隻の小船が帆を揚げて急速に接近してきたが,突然くるりと向きを変えて,フリース島(大島)に向かって引きつけられるかのように,かなりの速さで遠ざかっていった。二叉の頂をもち,そして他のそう高くない山々を従えた富士山が伊豆岬越しに遠くそびえていた。これらの山々は大体,雲で覆われていた。



Towards sunrise one of the most glorious scenes ever beheld was to be seen by those who were up, but I was not out till after sunrise. Mount Fusi lay right before us clothed with a pure mantle of snow, and all the high points of the landscape were of the same dazzling white, including the island of Oo-sima, from which the smoke now could plainly be seen rising and settling in a lustrous cloud above the summit, through which the rays of the sun shed a peculiar brightness. The shores of the bay were destitute of snow, and the dun brown of some parts with the dull green of the pineries added other contrasting shades to the snow, rendering the whole variegated and beautiful. As the sun rose to view, the tops of Fusi and other hills were touched with a roseate hue which dis- appeared as it came further up, but the brilliancy of the whole compensated for this transitory charm. It was a magnificent sight in every respect.

日の出近く,これまで眺めたうちでもっとも壮麗な光景の一つを,甲板にいた者たちは見た。(略)
富士山がまん前に純白の雪のマントに包まれて横たわり,見渡すかぎりの山々は大島をも含めて,みな目もくらむようにまぶしい白さだった。大島から立ち昇る噴煙が,山頂の上空にたなびいている輝く雲の中に消えてゆくのが,今やはっきりと見え,雲間を通して太陽の光がきわだって明るく射していた。(略)
太陽が昇ると,富士山やその他の山々の頂がバラ色に輝いた。なおも日が昇ると,彩色は失われていったが,この束の間の美しさが消えた後は,一面に日の光が輝いた。なんともすばらしい光景であった。



時間があれば詳しく見ていきたいところですが,1つ気づいたことがあります。

ペリーは富士の頂を summits と複数形で表し,ウィリアムズも bifurcated peak(二又に分かれた頂)としています。

これは富士山の頂上が平らになっていて,その両端が尖って見えたのでしょう。

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この記事へのコメント

2024年11月01日 07:23
おはようございます。

 もしかして、お手数をおかけしてしまったのではないでしょうか? そうであれば申し訳ない事です。

 まだ十分に読み込めていないのですが、意外にペリーの文も散文的ではない、という事に気付きました。「富士の高値」と言う表現を、最初は「The peaked summit of Fuji rose」と書いて、その後は「The lofty peak of Fuji」と、表現を換えていますね。この辺、やっぱり教養なんでしょうね。

 「ふじ」の表記が「Huji」でなく、「Fuji」なのは、当時の日本人の発音の違いではなく、当時の米国人の発音上の癖じゃないでしょうかね。当時の日本人の「ハ行」の発音ですが、特に江戸っ子は両唇が合わさらない、弱い「H」音です(ほぼ子音が発音されません)。京阪もほぼ同様に「H」音でした。両唇が接する「F」音の「ハ行」音は、かなり古代、平安時代前半以前の発音です。
2024年11月02日 06:09
あきあかねさん
おはようございます。
原文については,自分でも載せたかったので外国のネットアーカイブで見つけることができてよかったです。最初からそうすればよかったのですが,2回分のところが3日にわたってしまいました。
「富士」の発音については,私が気になったのは「H」と「F」の発音ではなく,「Fusi」と「s」を用いている点です。アーネスト・サトウ Earnest Satow は「日本人は Fuji-san と呼び,外国人は Fusiyama と呼ぶ」と書いているので,発音も「フスィヤマ」と呼んでいたのかなあと思ったり。
それに,日本人は「フジヤマ」なんて言わない,せいぜい「富士の山」「富士の嶺」なのに,なぜ外国人は「フジヤマ」と呼ぶようになったのかは不思議で,そのあたりを研究している人もいるようです。