幕末の外国人が見た富士山(6) ロバート・フォーチュン

前回のシュリーマンに続き,政府関係者ではなく民間外国人が描いた幕末の富士山
ロバート・フォーチュン(Robert Fortune,1812-1880)はスコットランド出身の植物学者,プラントハンター,商人。

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植物採集のために幕末の長崎,江戸,北京などを歴訪しました。
日本では桜田門外の変や生麦事件など生々しい見聞も記述しています。

その本が Yedo and Peking; A Narrative of a Journey to the Capitals of Japan and China

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和訳は講談社文庫「幕末日本探訪記 江戸と北京」で読むことができます。

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彼が日本を訪れたのは1860年(万延元年)の10月
長崎を出て大隅半島を経由し,船は伊豆の岬を通過。大島の三原山からは噴煙が上がっています。

On our left, on that same morning, was spread out to our admiring gaze the fair land of Nipon ; and very beautiful it was to look upon. The land was hilly and mountainous as in China ; but there appeared, some fifty or sixty miles inland. Mount Fusi, or Fusi-yama, the "Matchless," or Holy Mountain of the Japanese. Its northern slopes were covered with snow, but on its southern sides green streaks of verdure were visible. This mountain is the highest in Japan. It was formerly supposed to be only 10,000 or 12,000 feet above the level of the sea, but later observations made by Mr. Alcock's party in 1860 give it a height of 14,177 feet.

同じ日(=10月29日)の朝,左手に見えた日本の陸地の美しさに感嘆して,うっとり見つめた。日本は中国と同様に,山や丘陵が多い。なかんずく内陸50-60マイルの地点にそびえ立つ富士山は,日本人にとって無二の崇高な山である
山の北面は雲におおわれていたが,南側に鮮やかな緑の線が見えた。富士山は日本最高で,以前は約10,000ー12,000フィートに推定されていたが,後に1860年,オールコック氏(=英国駐日公使)一行の観測によって,14,177フィートに改められた。


アメリカ人ペリー提督らが富士を「Fusi」と記述していたように,英国人フォーチュンも「Fusi」「Fusi-yama」と記述しているところが興味深いです。
日本のことはもちろん Japan と書いていますが,日本の陸地のことを「fair land of Nipon」と書いているところもおもしろいです。

ちょっと植物学者的な視点が感じられる文章ですね。
ちなみに,こちらが富士山を描いた挿絵です。

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江戸に滞在中は乗馬や徒歩で近郊へしばしば遊覧に出かけました。ただ,護衛の役人がいつもついてきます。
これは,江戸城と江戸の町を表紙にしたもの。

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品川あたりではその植物を詳しく描写しています。そして・・・

As the eye wanders over these valleys and hills, it rests at last on a conical mountain in the background, some 14,000 feet in height, and nearly covered with snow : this is Fusi-yama, the holy mountain of Japan. It would certainly be difficult in all the world to find a scene of greater natural beauty than this.

それらの丘や田圃の向こうを眺めまわしているうちに,背後にほとんど雪をかぶった,標高14,000フィートの円錐形の山に眼がとまった。この神々しいまでの山こそ日本のフジヤマで,たしかに世界中で,これ以上に美しい天然の風景を見付けるのはむずかしいだろう。


べた褒めですね。

他にも日本の植物,庭園などについて多くの記述がありますが,盆栽については敷いた石について富士山が出てきます。

many of these representing the famous Fusi-yama, or " Matchless Mountain " of Japan

多くは有名な富士山――日本の無比の山――をかたどっている



植物に限らず,他にもありとあらゆる(?)日本の風俗・事件・出来事を描いた本です。


この記事へのコメント

2024年11月06日 06:37
おはようございます。

 私、この方を知りませんでした。前回のシュリーマンの旅行記よりもこちらの方が面白そうですね。講談社文庫で出ているんですね。探してみます。
2024年11月07日 06:18
あきあかねさん
おはようございます。
植物学的な視点が多いのですが,いろいろなジャンルにわたり幕末の日本を知るにはとてもいい資料だと思います。これまで書いてきた外国人は富士山の他に必ずといっていいほど書いていることがあり,それは混浴に対する驚きです。まあ,このことについては書く日が来るかどうかはわかりません。