大根役者(3) 英語で ham(後編)
前回は英語で「大根役者」を表す単語が ham であることを書きました。

ham informal
an actor who performs with too much false emotion
あまりにも間違った感情で演じる役者
その語源がシェイクスピアの「ハムレット」にあるのは俗説であるようです。
では,他にどんな説があるのでしょうか?
こんな英文を見つけました。
The word Ham to mean an "overacting inferior performer," apparently dates from about 1882 and orignates from American English. Originally the word was hamfatter, meaning "actor of low grade," and has been linked to an old minstrel show song, "The Ham-fat Man" which dates from about 1863.
「大げさな演技の下手な役者」を意味する Ham という単語は1882年頃から見られ,アメリカ英語に起源があるようです。元々その言葉は「評価の低い役者」を意味する hamfatter であり,それが古い,黒人に扮する白人のショーの歌「Ham-fat Man」と結びついてきているのです。その歌は1863年に生まれています。
これは白人が黒人を演じるショーの代表格「ジャズ・シンガー」とそれを演じたアル・ジョルソン。


そして,下手な役者の hamfatter の起源になったと考えられる歌。

ちなみに,アル・ジョルソンは白人が黒人に扮する「ミンストレル・ショー」を彷彿とさせる黒塗りの顔で黒人を演じていたことで,人種差別を助長したとみなされているそうです。ただし,そのような演技手法は公民権法施行前でアメリカにおいては問題ないとされていたようです。
さて,こんな説もあるようです。
The term "ham," used to describe an over-eager or overly dramatic performer, has its origins in the theatrical world, particularly in the 19th century. It is believed to derive from "ham actor," which referred to actors who exaggerated their performances or acted in a showy manner, often to the detriment of the production's quality.
熱が入りすぎたりあまりにも芝居じみた役者を表すのに使われる ham と言う言葉は,とりわけ19世紀の演劇の世界に起源があります。それは「ham actor」に由来すると信じられており,その言葉は,しばしば劇団の質に損害を与えかねないほどに演技を誇張したり派手に演じる役者のことを言いました。
The precise origin of "ham" in this context is somewhat unclear, but several theories exist:
この文脈における「ham」の明確な起源はあまりはっきりしないのですが,いくつかの説があります。
1. Hamming It Up: One popular theory suggests that "ham" comes from the phrase "to ham it up," which means to overact or perform in an exaggerated manner. This phrase likely emerged from the notion that such performances are insincere or overly theatrical.
1.Hamming It Up 説
よく言われるのがこの説で,「ham」は演技をしすぎるとか誇張して演じるを意味する成句「ham it up」から来ています。この成句は,そのような演技は不誠実であまりにも芝居じみているという概念から来たようです。
2. Hams in Vaudeville: Another theory ties the term to vaudeville performers, where the term "ham" was used to describe actors who were more concerned with showmanship and personal flair than with the art of acting itself.
2.演芸場説
もう1つの説は演芸場の役者の言葉から来ており,そこでは「ham」は演技自体より演出や(歌や曲芸などの)個人の才能に関心がある役者を表すのに使われました。
3. The "Ham" of Yesteryears: Some suggest that "ham" was a derogatory term for actors who were considered to lack talent but still sought the limelight, akin to the way some might refer to someone as a "showboat" today.
3.往年の Ham 説
「ham」は才能に欠けていると思われているのにいまだに注目の的になりたいと思っている役者を軽蔑した言葉だと考える人もいる。今日で言う「ショウボート」(目立ちたがり屋)に似ている。
The term has persisted in popular culture and continues to be used to describe performers who seek attention through exaggerated or over-the-top acting.
この「ham」と言う言葉は,大衆文化に根付き,誇張し過ぎややりすぎの演技を通して注目を求める役者を表すために使われ続けている。
んー,1つの説にはしぼり切れませんが,「ham it up」説が有力じゃないですか。
まあ演劇界では古くから「ham」「ham actor」が使われてきたようです。
ちなみに,動詞の ham はこのように使われます。
ham it up informal
to perform with too much false emotion when acting
演技をするときにあまりにも間違った感情で演じること
ジーニアス英和辞典では・・・
ham it up
(うけを狙って)大げさな演技をする
「大根役者」には努力してもうまくできないという同情が生まれますが,「ham」にはどこか「わざとらしさ」を感じますね。

年明け早々「ハムレット」から始まったシリーズですが,いちおう終了です。
読んでいただきありがとうございます。

ham informal
an actor who performs with too much false emotion
あまりにも間違った感情で演じる役者
その語源がシェイクスピアの「ハムレット」にあるのは俗説であるようです。
では,他にどんな説があるのでしょうか?
こんな英文を見つけました。
The word Ham to mean an "overacting inferior performer," apparently dates from about 1882 and orignates from American English. Originally the word was hamfatter, meaning "actor of low grade," and has been linked to an old minstrel show song, "The Ham-fat Man" which dates from about 1863.
「大げさな演技の下手な役者」を意味する Ham という単語は1882年頃から見られ,アメリカ英語に起源があるようです。元々その言葉は「評価の低い役者」を意味する hamfatter であり,それが古い,黒人に扮する白人のショーの歌「Ham-fat Man」と結びついてきているのです。その歌は1863年に生まれています。
これは白人が黒人を演じるショーの代表格「ジャズ・シンガー」とそれを演じたアル・ジョルソン。


そして,下手な役者の hamfatter の起源になったと考えられる歌。

ちなみに,アル・ジョルソンは白人が黒人に扮する「ミンストレル・ショー」を彷彿とさせる黒塗りの顔で黒人を演じていたことで,人種差別を助長したとみなされているそうです。ただし,そのような演技手法は公民権法施行前でアメリカにおいては問題ないとされていたようです。
さて,こんな説もあるようです。
The term "ham," used to describe an over-eager or overly dramatic performer, has its origins in the theatrical world, particularly in the 19th century. It is believed to derive from "ham actor," which referred to actors who exaggerated their performances or acted in a showy manner, often to the detriment of the production's quality.
熱が入りすぎたりあまりにも芝居じみた役者を表すのに使われる ham と言う言葉は,とりわけ19世紀の演劇の世界に起源があります。それは「ham actor」に由来すると信じられており,その言葉は,しばしば劇団の質に損害を与えかねないほどに演技を誇張したり派手に演じる役者のことを言いました。
The precise origin of "ham" in this context is somewhat unclear, but several theories exist:
この文脈における「ham」の明確な起源はあまりはっきりしないのですが,いくつかの説があります。
1. Hamming It Up: One popular theory suggests that "ham" comes from the phrase "to ham it up," which means to overact or perform in an exaggerated manner. This phrase likely emerged from the notion that such performances are insincere or overly theatrical.
1.Hamming It Up 説
よく言われるのがこの説で,「ham」は演技をしすぎるとか誇張して演じるを意味する成句「ham it up」から来ています。この成句は,そのような演技は不誠実であまりにも芝居じみているという概念から来たようです。
2. Hams in Vaudeville: Another theory ties the term to vaudeville performers, where the term "ham" was used to describe actors who were more concerned with showmanship and personal flair than with the art of acting itself.
2.演芸場説
もう1つの説は演芸場の役者の言葉から来ており,そこでは「ham」は演技自体より演出や(歌や曲芸などの)個人の才能に関心がある役者を表すのに使われました。
3. The "Ham" of Yesteryears: Some suggest that "ham" was a derogatory term for actors who were considered to lack talent but still sought the limelight, akin to the way some might refer to someone as a "showboat" today.
3.往年の Ham 説
「ham」は才能に欠けていると思われているのにいまだに注目の的になりたいと思っている役者を軽蔑した言葉だと考える人もいる。今日で言う「ショウボート」(目立ちたがり屋)に似ている。
The term has persisted in popular culture and continues to be used to describe performers who seek attention through exaggerated or over-the-top acting.
この「ham」と言う言葉は,大衆文化に根付き,誇張し過ぎややりすぎの演技を通して注目を求める役者を表すために使われ続けている。
んー,1つの説にはしぼり切れませんが,「ham it up」説が有力じゃないですか。
まあ演劇界では古くから「ham」「ham actor」が使われてきたようです。
ちなみに,動詞の ham はこのように使われます。
ham it up informal
to perform with too much false emotion when acting
演技をするときにあまりにも間違った感情で演じること
ジーニアス英和辞典では・・・
ham it up
(うけを狙って)大げさな演技をする
「大根役者」には努力してもうまくできないという同情が生まれますが,「ham」にはどこか「わざとらしさ」を感じますね。

年明け早々「ハムレット」から始まったシリーズですが,いちおう終了です。
読んでいただきありがとうございます。
この記事へのコメント
体調はもう戻られましたか?
今回のお題の「Ham」ですが、アマチュア無線家やアマチュア無線の事を「ハム」と呼ぶことはご存じだと思います。これも「Ham」と綴ります。
で、これの語源ですが、幾つかあって定まっていないのですが、最も多く言われているのは、「Ham」というのが「ブー、ブー」とか、「ガチャガチャ」とかのうるさい雑音を意味する俗語だそうで、それから来た言葉、と言うのがあります。実際、マイクや増幅回路に紛れ込む電源ノイズの事を「ハム」と呼んでいたりします。
今回、「大根役者」を英語では「ham」と言うのだ、という事を聞いた際、その事を思い浮かべました。
おはようございます。咳や鼻水は出るのですが,マスクして社会生活を送っております。
実は書きませんでしたが,ham の語源にはアマチュア無線とも関係がある説があります。
「演技が素人然としていることから Amateur (アマチュア) が訛った」とする説で,これはアマチュア無線をハムと称する起源のひとつでもあるとか。am にhをつけて ham にしたとか,アマチュアは大根役者と同じで ham radio から来たとか,あきあかねさんが書かれている説とか。昔はアマチュア無線をしている人もいたし雑誌もあったような気がします。今はネット回線万能の時代なんでしょうか。