大根役者(1) その語源

シェイクスピアについて書いてきましたが,彼は書くのは詩的な台本。
演劇はそれを演じる役者がいて成立します。

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大学時代にご存命だった杉村春子さん主演の「欲望という名の電車」が見たくて,池袋のサンシャイン劇場に行きました。

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でも,誰もが名優と言うわけにはいかないでしょう。中には「大根役者」なんて呼ばれる人がいたりします。

精選版 日本国語大辞典より。

だいこん‐やくしゃ【大根役者】
〘 名詞 〙 演技力のない、芸のまずい役者を軽蔑していうことば。だいこん。だいこ。


[初出の実例]「川上音次郎の如き大根役者(ダイコンヤクシャ)ですらも候補者に立ちたる事あり」(出典:面白半分(1917)〈宮武外骨〉衆議院議員総選挙夢想彙報)

えっ!
川上音次郎と言えば,日本で初めて「ハムレット」を翻案し演じた「川上音二郎」一座のこと?

→ 「ハムレット」いろいろ

どうも,1900年代の初めころには「大根役者」という言葉はできあがっているようで,江戸時代の歌舞伎が起源ではないかという説も見られます。

でも,どうして「大根」なのか?

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大辞泉
語源については
①大根の根の白いことを素人しろうとに寄せていったもの
②へたな役者を意味する「馬の脚」の脚から連想していったもの
③大根はどのように食べても腹を壊さないので,へたなことと掛けて「当たらない」の意でいったもの
など諸説がある。


ブリタニカ国際大百科事典
演技のまずい役者に対する蔑称。江戸時代の歌舞伎で,舞台上の俳優に対する悪態として使われたのが始り。
現在では他の分野の俳優に対しても,同じ意味で使われている。
大根は格好が悪いからとも,食べても決してあたらないところからあたらない芸をさすようになったとも,その起源には諸説がある。


ブリタニカでは歌舞伎が起源とされています。

まあ,起源ははっきりしないようですが,「大根」はあまりいい印象はないようですね。おでんや漬物は美味しいんですが。

次回はこの「大根役者」と「ハムレット」の関係です。




この記事へのコメント

2025年01月08日 07:16
おはようございます。

 川上音二郎が大根役者かどうかは、彼の演劇を見ていない(「オッペケペー節」を歌っているのはレコードで聞いたことがあります)ので何とも言えないのですが、「新派演劇の父」と言われる人ですし、そんなことなかったんじゃないの、と思ってしまいます。

 「大根役者」の語源ですが、私は「どう、”料理”しても食中りする(当たる)事が無いから」と覚えていました。
 江戸時代の料理本に、「豆腐百珍」とか、「たまご百珍」とか、「○○百珍」と題するものが幾つかあります。その中に「大根百珍」と言うものも有りました。それ程昔から庶民に良く知られる身近な食材でした。そして、大根と言う食材は、大向こうを唸らせるような料理にはならないかもしれないが、人を飽きさせず、その場その場の場を持たせ、メインの料理(主役)を引き立たせながら、自らも存在感を主張する食材だと私は思っています。
 なので、私は「大根役者」と言う言葉を悪くはとっていません。特にバイプレヤーに対してはむしろ誉め言葉でないかとさえ思っています。
2025年01月09日 06:01
あきあかねさん
おはようございます。
確かに川上音二郎にはそんな悪い評判はないように思います。まあこの評論をした宮武外骨がけっこう皮肉っぽい批評家だからでしょう。昔関口宏さんの番組だったか,この宮武外骨の特集を見たことがあります。
大根役者のいい意味での解釈については次回の記事で少し触れました。こういうのは絶対的な起源というのはわからないんじゃないかとも思います。