「がぜん」考(6) 補遺
NHK放送文化研究所や辞書編集者のサイトから,「がぜん」(俄然)が本来の「急に」「突然」の意味ではなく,昭和の初期に「強調の意味で使う」ことが流行した,と言うことで,前回その例を青空文庫で調べてみましたが発見できませんでした。
広辞苑の第七版でもこのよう説明を見つけることができます。

広辞苑 第七版 - 新村 出
がぜん【俄然】
①にわかなさま。だしぬけなさま。急に。
②(昭和初期の流行語)断然。とても。
まあ,以下の2例は「突然」でも強調の「とても」でも,どちらの意味でもとれるような気がするのですが,そこが「がぜん」のもつ本来の不安定な意味に依るのではないでしょうか。
「日曜日から日曜日まで」 南部修太郎
夜食後、暫くレコオドを聽く。ベルリオズの「幻想交響曲」、ドビユツシイの「海」、シヨパンの「ピアノ協奏曲」、最後にお氣に入りのリストの「ハンガリイ狂想曲第六番」、近頃暫く落ち着いてレコオドを聽く暇もなかつたので今夜は少し盛り澤山だ。それにしても、ここ八九年の間隔をおいて自分のレコオド熱は俄然復活して來た。
(「三田文學」三田文學會 1936(昭和11)年1月1日発行)
「美術曲芸しん粉細工」 阿部徳蔵
『あたしもチユウリツプよ。』
『あたしも……。』
と、他の二人もチユウリツプの註文をした。然し此時、俄然よわつたのは狐光老だつた。何を隠さう、彼はチユウリツプの花を知らなかつた。『チユウリツプ、チユウリツプ、きいたやうな名だが……。』と二三度口の中で繰返したが、てんで、どんな花だか見当さえつかなかつた。
(「奇術随筆」人文書院 1936(昭和11)年5月)
上記の2例が昭和初期の「強調表現」とは言い切れませんが,「とても」「断然」の意味は今でも多く見られ,以前書いたように今では逆転現象が起きています。
最近の商品や広告から「強調表現」と思われるものを探してみました。
次の2つは「断然」の意味で使っているのかなあ,と思います。
1つめは,かつて流行したダンス「パラパラ」の動画DVD。

もう1つは,AVEXレーベルの曲を集めたダンスの催しでしょうか。

次にまた2つの使用例を見てみます。
1つめは文頭で使っているということは,前後のつながりがなく「急に」の意味にはとれません。

「がぜん面白い!」は「とても面白い!」の意味でしょう。
次はスイミングスクールの広告。

「水泳と勉強の仕方のコツが一緒と気づいて,がぜん楽しみな二学期」。
「突然楽しみになった」のか「とても楽しみになった」のか。
これについては,新明解国語辞典・第七版(三省堂)の定義を紹介して,シリーズの終りとしたいと思います。

新明解国語辞典 第七版 - 山田 忠雄, 柴田 武, 酒井 憲二, 倉持 保男, 山田 明雄, 上野 善道, 井島 正博, 笹原 宏之
がぜん【俄然】
何かをきっかけに、それまでとは全く違った事態が展開する様子
「がぜん攻勢に出る」
いろいろな辞書がありますが,「何かのきっかけ」があることが書いてあります。ですから,ただ単に「とても」「断然」ではなく,何らかの変化があるがゆえ「急に」「突然」「にわかに」のニュアンスが出てくるのでしょう。
となると,先ほどのスイミングスクールの広告は「水泳と勉強の仕方のコツが一緒と気づいた」ことがきっかけになって「がぜん楽しみになった」のかもしれませんね。
おしまい
広辞苑の第七版でもこのよう説明を見つけることができます。

広辞苑 第七版 - 新村 出
がぜん【俄然】
①にわかなさま。だしぬけなさま。急に。
②(昭和初期の流行語)断然。とても。
まあ,以下の2例は「突然」でも強調の「とても」でも,どちらの意味でもとれるような気がするのですが,そこが「がぜん」のもつ本来の不安定な意味に依るのではないでしょうか。
「日曜日から日曜日まで」 南部修太郎
夜食後、暫くレコオドを聽く。ベルリオズの「幻想交響曲」、ドビユツシイの「海」、シヨパンの「ピアノ協奏曲」、最後にお氣に入りのリストの「ハンガリイ狂想曲第六番」、近頃暫く落ち着いてレコオドを聽く暇もなかつたので今夜は少し盛り澤山だ。それにしても、ここ八九年の間隔をおいて自分のレコオド熱は俄然復活して來た。
(「三田文學」三田文學會 1936(昭和11)年1月1日発行)
「美術曲芸しん粉細工」 阿部徳蔵
『あたしもチユウリツプよ。』
『あたしも……。』
と、他の二人もチユウリツプの註文をした。然し此時、俄然よわつたのは狐光老だつた。何を隠さう、彼はチユウリツプの花を知らなかつた。『チユウリツプ、チユウリツプ、きいたやうな名だが……。』と二三度口の中で繰返したが、てんで、どんな花だか見当さえつかなかつた。
(「奇術随筆」人文書院 1936(昭和11)年5月)
上記の2例が昭和初期の「強調表現」とは言い切れませんが,「とても」「断然」の意味は今でも多く見られ,以前書いたように今では逆転現象が起きています。
最近の商品や広告から「強調表現」と思われるものを探してみました。
次の2つは「断然」の意味で使っているのかなあ,と思います。
1つめは,かつて流行したダンス「パラパラ」の動画DVD。

もう1つは,AVEXレーベルの曲を集めたダンスの催しでしょうか。

次にまた2つの使用例を見てみます。
1つめは文頭で使っているということは,前後のつながりがなく「急に」の意味にはとれません。

「がぜん面白い!」は「とても面白い!」の意味でしょう。
次はスイミングスクールの広告。

「水泳と勉強の仕方のコツが一緒と気づいて,がぜん楽しみな二学期」。
「突然楽しみになった」のか「とても楽しみになった」のか。
これについては,新明解国語辞典・第七版(三省堂)の定義を紹介して,シリーズの終りとしたいと思います。

新明解国語辞典 第七版 - 山田 忠雄, 柴田 武, 酒井 憲二, 倉持 保男, 山田 明雄, 上野 善道, 井島 正博, 笹原 宏之
がぜん【俄然】
何かをきっかけに、それまでとは全く違った事態が展開する様子
「がぜん攻勢に出る」
いろいろな辞書がありますが,「何かのきっかけ」があることが書いてあります。ですから,ただ単に「とても」「断然」ではなく,何らかの変化があるがゆえ「急に」「突然」「にわかに」のニュアンスが出てくるのでしょう。
となると,先ほどのスイミングスクールの広告は「水泳と勉強の仕方のコツが一緒と気づいた」ことがきっかけになって「がぜん楽しみになった」のかもしれませんね。
おしまい
この記事へのコメント
なるほど、二つの意味を繋ぐ”ミッシングリングが後半の三つの例なのですね。『何かをきっかけに、それまでとは全く違った事態が展開する様子』と言う解釈が強調語としての「がぜん」に替わる原因だった訳ですね。理解できました。
そう言えばですが、中高生の頃、「このドリル終わらせた順にプールに入って良いぞ、って言われてがぜん張り切ってしまった」と言ったような言い方をしていた事を思い出しました。ちょうど中間のような使い方ですね。
おはようございます。
新明解の「急に」「突然」を用いない説明がいちばんしっくりきます。何かのきっかけで変わる様子が「がぜん」の根幹にあると思われます。