「納車」お前もか!

前回まで,行動する側が使うことばが誤解されて,応じる側にも使うようになった「課金」「募金」「貸し切る」について書いてきました。
ちなみに,これは1980年代の国語辞典。「課金」なんて言葉すら載っていません

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「募金」については,やはり集める側の言葉で,応じる側・支払う側の意味は載っていません。

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このような言葉のシリーズ,最後は「納車」です。
シーザーも「納車,お前もか!」と言ったとか言わないとか。

ただし,「納車」という言葉は先ほどの古い辞典はもちろん,私が持っている広辞苑(第五版),新明解国語辞典(第七版),岩波国語辞典(第七版)には載っていません。「農舎」が出てくるのみ。
電子辞書内のスーパー大辞林には載っています。

のうしゃ【納車】
自動車などを買い主へ納入すること。


本来はディーラー側が「車を納める」の意味ですね。

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でも,最近は「明日は待ちに待った納車だ」なんて,購入する側がよく使います

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「納車」だからと言って,その人がどこかに車を納入しに行くわけではなく,受け取る側なのによく考えれば変ですね。
自分なりの考えですが,これは「募金」と同じで,その行為を表す言葉がそれ以外に見つからないのではないでしょうか。
(「課金」については「加金」という音声上の誤解があるのかも。)

まあ,「募金」には「寄付」と言う近い言葉がありますが,「納車」は近い言葉も見つかりません。
「明日は新車が来る日だ」と言ってもいいのですが「納車日だ」と言ったほうがスムーズ。

青空文庫で「納車」を検索しても,この言葉を使った小説はヒットしません。
最近の小説なら,この使用例が見つかるかもしれませんが。

最後に,非常に残念なニュース。
この記事を書くきっかけになった,そしてこれまでも何度も参考にしてきたNHKラジオの番組「国語辞典サーフィン」ですが明日の放送が最終回になってしまいました。

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再放送が一度ありますが,番組が終わるのは悲しい。
また,いつかこの番組が再開されることを願ってやまないです。



この記事へのコメント

2025年03月14日 06:53
おはようございます。

 なるほど、確かに「納車」もそうですね。やはり、先生がおっしゃるように、代わる言葉がにつからないからでしょうね。それにですが、「納車日」とすると動詞が名詞になりますので、動作の主客が逆転しても使えますし、それが短縮されて「納車」となっても名詞として使える訳ですね。こういう変化は他の動詞でもありそうですね。

 あっと、「課金」は実は大正時代から有る言葉です。ただ、昔は技術用語でした。最も知られていたのは有線通信(電話)です。電話料金を算出するための信号や料金を算出するための仕組み上で使われる用語で、「課金情報」、「課金信号」、「課金算出ルーティーン」、「課金制度」、「従量課金」、「定額課金」などの使い方がされていました。他にはガスや水道料金を算出する仕組みにおいてもこの「課金」と言う言葉が使われていましたね。今でもたまに新聞やテレビで見かけます。
 でも、国語辞書に載っていないんですね。かなり一般的な言葉だと思っていたので不思議です。
2025年03月15日 06:25
あきあかねさん
おはようございます。少し前の広辞苑ですら「課金」が載っていないのは一部の業者の用語だったからでしょうか。今はよく聞く言葉で,載っていないほうがレアでしょう。
「納車」は今では普通に変換されます。収める側の行為と言うよりは,「火事」とか「渋滞」のような現象とか出来事のような言葉として認識されているのではないでしょうか。