「願わくは」か「願わくば」か!?(2) 国語辞典より

前回,西行法師の歌に表記に「願わくは」と「願わくば」の2つが見られることを書きました。
まあ,ウェブ検索すると圧倒的に「願わくは」なんですが。

願わく花の下にて春死なんその如月の望月の頃・・・5740

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願わく花の下にて春死なんその如月の望月の頃・・・1510

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日本国語大辞典を見てみましょう。

ねがわく‐は ねがはく‥【願は】
〘 副詞 〙 ( 動詞「ねがう(願)」のク語法に助詞「は」が付いてできたもの。語源意識が失われて「ねがわくば」とも ) 願うところは。望むことは。多く、願望や希望の表現を伴って、ひたすら願う意を表わす。どうか。こいねがわくは。漢文訓読から用いられた語法で、現代でも、文語調の文体に用いられる。
[初出の実例]「祈(ネガハクハ)奇記を覧(み)る者、邪を却(しりぞ)け、正に入り、諸悪作(な)すこと莫(な)く、諸善奉行せむことを〈興福寺本訓釈 祈 禰加波久波〉」(出典:日本霊異記(810‐824)上)
「ねがはくは花のしたにて春死なんそのきさらぎの望月の頃」(出典:山家集(12C後)上)


やはり,意味は「願うところは」で,願望や希望の表現が伴います

古くは800年代にその用例が見られるようです。
「山家集」に収められた西行法師の歌も紹介されています。

おもしろいのは「語源意識が失われて『願わくば』とも」と「願わくば」も認めています

気になるのは誤用には厳しい岩波国語辞典。
私が持っている岩波国語辞典第七版では・・・

「願わくば」は誤り

となっていますが,第八版では・・・

今は「願わくば」とも言う

とスタンスを変えてきたそうです。


じゃあ,現実にはどちらが多く使われているのか,「毎日ことば」という毎日新聞のサイトなんでしょうか,おもしろい調査結果を載せています。

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誤用とされることもある「願わくば」が4割を超えています。
「いずれも言う」を含めればともに過半数となり,両方ともよく使われていることがわかります。


まあ,今回の記事の出発は西行法師の歌なので,これについては「願わくは」ということになります。

個人的には「願わくは」は「私が願うことは」の意味で,「願わくば」は「できることなら」くらいの意味という印象を受けます。





この記事へのコメント

2025年04月10日 06:38
おはようございます。

 私が何故「願わくは」の方を選ぶかと言いますと、「ば」だと意味が少し違ってくるからです。
 「願わくば」ですと、「ば」は「願う」と言う行為を受けて述部へつなぐ接続助詞の役割になります。従いましてその意味は、「願うという事をするならば、『花の下にて春死なん』」と言う意味になります。歌意が少し異なってきますよね。仮定の意味合いが強くなります。
 やはりこの歌は「私の願いは」の意味の方がふさわしい、と私は思いますので、「願わくは」と読んだ方がより良いように私には思えるのです。
2025年04月11日 06:13
あきあかねさん
おはようございます。辞書でも「願わくば」を許容してるようですが,私も最後に書いたように意味が違うと思うんですよね。まったく同感です。
そのあたり,次回,過去の文章から拾ってみます。