Haiku in English on Sunday (664) 藤棚や引釣るしたる馬の沓

日曜日は俳句の紹介と英訳。
1週間,上高地のことを書いてきましたが,長野のことを書いたのなら,やはり信州の俳人,小林一茶の一句を取り上げたいところです。

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詳しくは次回に書くとして,せっかく長野に行ったのだからと立ち寄ったのが長野市の善光寺

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その参道に一茶の句碑を見つけました。側面に「2000年初春建立」。

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藤棚や引釣るしたる馬の沓  小林一茶
(ふじだなやひきつるしたるうまのくつ)

「七番日記」所収。一茶53歳の一句で,12回目の登場。「引釣るしたる」を「ひっつるしたる」と読むサイトもあります。

一茶七番日記 上 (岩波文庫 黄 223-5) - 小林 一茶, 丸山 一彦
一茶七番日記 上 (岩波文庫 黄 223-5) - 小林 一茶, 丸山 一彦

この句には前書きがあります。「善光寺大門前に乞食ゐざりが手筋見るとて人々こぞりけり」

手相を見るという物乞いが善光寺の参道にいて,人が集まっています。
通りかかった馬子もその中に加わっているようで,藤棚に馬のくつが引っかけてあります。


これは善光寺の後で立ち寄った「あしかがフラワーパーク」の藤棚。
それはもう感動ものでありますが,一茶が見たのは善光寺参道にあった藤棚。

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「藤」「藤の花」「藤棚」晩春の季語
立夏を過ぎましたが,仙台では見頃を迎えています。

「馬の沓」は蹄を保護するための藁製の保護具。
日本の在来種は元々蹄が固く,蹄鉄が普及したのは明治以降だとか。

これは歌川広重の「名所江戸百景」から馬が草履を履いている様子(部分)。

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これも広重の「東海道五十三次・藤枝」で,馬の沓を履かせているところが描かれています。

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一茶の句で馬子がどうして馬沓を藤棚に吊るしたのかはわかりません。使い古したものか,新しいものに替えようとして,手相見に心奪われてしまったか。

そんなちょっとしたことに目を向ける一茶の観察眼がおもしろいです。


では,英訳してみます。

藤棚や引釣るしたる馬の沓  小林一茶

On a wisteria trellis
A horseshoe made of straw
Has been hung



horseshoe はいわゆる「蹄鉄」なので,藁でできていることを説明しました。




この記事へのコメント

2025年05月11日 07:17
おはようございます。

 『引釣るしたる』が面白いですね。最初にそこに気が行ってしまいます。藤紫の内に一点、黄色い藁沓、色が引き締まります。
2025年05月11日 08:29
あきあかねさん
おはようございます。
私もこの「引釣るしたる」が気になりました。「釣る」(吊る)でいいのですが「引く」がつくと強調されますね。「掛ける」でいいのに「引っかける」,「剥がす」でいいのに「引っぺがす」。となると「引釣るしたる」は上品に「ひきつるしたる」よりは「ひっつるしたる」の方が読み方としてはいいのかなあ。