Haiku in English on Sunday (665) 一生の楽しきころのソーダ水

日曜日は俳句の紹介と英訳。
江戸の文芸・俳諧を正岡子規が「俳句」と呼んでから久しいですが,現実の言葉と俳句の季語の間にちょっとした乖離があるものがあります。
例えば「ソーダ水」と言えば,21世紀の我々は何を思い浮かべるでしょうか?

「ソーダ水」と言えば「炭酸水」とも呼ばれ,炭酸が入った水のことで,お酒やシロップなどを割って飲むもの。

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でも,俳句の季語の「ソーダ水」大正の頃から使われるようになったそうで,炭酸水にレモン・イチゴ・オレンジ・メロンなどのシロップで味付けをした清涼飲料水のこと。

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ですから,俳句を鑑賞するときは,味のないただの炭酸水を飲んでいるわけではないんです(笑)。

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参照 → 紫のソーダ水ありまづからん  星野立子

ちなみに,炭酸水にリンゴの果実を加えた「サイダー」は別格なのか,別の季語として独立しています。

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一生の楽しきころのソーダ水  富安風生
(いっしょうのたのしきころのソーダすい)

小澤實選「近現代俳句」(河出文庫)より。

近現代俳句 文庫 古典新訳コレクション N
近現代俳句 文庫 古典新訳コレクション N

富安風生は愛媛県生まれの俳人で洒脱な作風で知られます。このシリーズは2度目です。

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作者63歳の句だそうで,楽しかった過去を振り返っているのか。
あるいは,青春時代を謳歌する女子高生あたりが飲んでいる光景なのか。

読者それぞれによって作中の主体が想像されるでしょう。
もしかすると,自分に置き換えた人は「一生の楽しきころ」は過ぎてしまったのでしょうか。
一種の心理テストみたい(笑)。

ソーダ水の「シュワー」っという炭酸がわき上がる音が青春時代の象徴のように聞こえてきます。

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では,英訳してみます。

一生の楽しきころのソーダ水  富安風生

A glass of soda
In the best days
Of my life



英語でも soda にはただの炭酸水の意味と,味がついた炭酸水の意味があります。

soda
1 soda water 
water that contains bubbles and is often added to alcoholic drinks:
気泡が入った水でよくお酒に加える
a Scotch and soda
(スコッチのソーダ割)

2 soda pop American English
a sweet drink containing bubbles, or a can or bottle of this drink [= pop]:
アメリカ英語で,気泡が入った甘い飲み物,または缶や瓶に入ったもの。popともいう。
a can of orange soda
缶入りオレンジソーダ



夏にぴったりの季語です。



この記事へのコメント

2025年05月18日 06:44
おはようございます。

 初め見た時は女性の俳句かと思いました。あの頃を懐かしむような、胸がキュッと締め付けられるようなノスタルジーと言うか…

 メロンソーダーは日本独特のもののようです。訪日外国人たちが良く言っています。で、その時、「soda pop」と言う単語が良く出て来ます。
2025年05月19日 06:01
あきあかねさん
おはようございます。
やはりソーダ水は女性が思い浮かびますね。この句は主体がはっきりしませんが,自分が主語ではなきと考えることもできます。現在の女学生を描くことで自分の過去を思い浮かべている,投影しているのかもしれませんね。