鶉衣(2) 螻翁(おけらじいさん)のすすめ

前回に続き,横井也有の「鶉衣」(うずらごろも)について。

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この書を世に出したのは大田南畝であることは前回書きました。
南畝は田沼時代の文人・狂歌師であり御家人。蔦屋重三郎のところから「鶉衣」を出版しました。

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たまたま長楽寺に立ち寄った南畝はそこで也有が書いた「借物の弁」を目にしました。
あまりにその文章がおもしろかったので,尾張出身者に会う度に也有のことを尋ね,その著作を目にする機会が訪れましたが,その時すでに也有は亡くなっていました。
南畝は也有の作品がこのまま埋もれてしまうのは惜しいと思い,自らの手で刊行することにしたんだそうです。

「借り物の弁」は「鶉衣」に収められてますが,今日はその話ではなく,私が安田登さんのラジオで聞いておもしろかった「おけらじいさん」の話を紹介します。
「おけら」「けら」は通常「螻蛄」と書きますが,「螻」一字をあてています。

螻翁伝

螻といふ虫は,よく飛べども家を過ぐる事あたはず,
よくのぼれども,木を窮むる事あたはず,
よくおよげども谷を渡る事あたはず,
よく穴ほれどもおほふことあたはず,
よく走れども人を免るる事あたはず,
これをかれが五能ありて一ッをもなさずとはいへりとぞ。


オケラはとんでも家を越えるほど高くは跳べず
木の登っても,極めることはできない。
泳いでも,谷を渡るほどでもなく
穴を掘っても,自分を覆い隠すほどは掘れない。
走っても人からは逃げられないし,
5つの能力があるのに,満足なものはない・・・。

オケラって子どものころよく見ました。
ギザギザの前脚が特徴的でした。

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続きです。

ここに翁あり,
詩つくれども詩ならず,
歌よめども歌に似ず,
物かけどもよからず,
絵かけどもつたなく,
俳諧すれども下手なり。

我,かの虫におとらめやとて,みづから螻翁とぞ名のりける。
やや老いたり,今はかかる身のほどをしりて,他にほめられむ事をねがはず,人の謗(そしり)をいとはず。

(以下略)


いいですねえ。何かを極めるのも人生ですが,人生はいろいろなことをやってみるのもまた楽し。
そんな生き方を「おけらじいさん」として楽しんでいます。


つづく



この記事へのコメント

2025年07月08日 06:40
おはようございます。

 わ~、なんか自分の事を言われているようで耳が痛いです(笑)。いわゆる「螻蛄の七つ芸」ってやつですね。”器用貧乏”等とも言いますが。

 数年前まで、夏の夜には私の部屋まで螻蛄の鳴き声が聞こえていたのですが、最近我が家の前の一軒家が潰されて近代的なアパートになりました。その所為で我が家の周りには土が無くなってしまい、螻蛄はいなくなってしまいました。
 螻蛄は「地虫(じむし)」とも呼ばれるのですが、空気がどんよりと澱む夏の宵に、”通奏低音”の様な地虫の鳴き声は、あの世とこの世の境が近づくような雰囲気を感じさせてくれます。
2025年07月09日 05:52
あきあかねさん
「おけらの七つ芸」初めて聞きました。調べてみると,この「鶉衣」とは関係なく昔から言われるんですね。オケラって何かの幼虫でもなく最終形態の昆虫ですよね。なんか不思議な生き物です。子どもの頃は前脚の動きがおもしろくて遊びましたが。もちろんその後は逃がしましたよ。鳴き声は印象がありません。