Haiku in English on Sunday (685) 潮風に吹かれとぶもの秋の蝶

日曜日は俳句の紹介と英訳。
先日庭先で私の前を弱々しく飛んでいくものがありました。
それは一匹の蝶。季語「秋蝶」「秋の蝶」「老い蝶」とも呼ばれ,低く弱々しく飛ぶところが特徴です。

その蝶は疲れたのか,私が近づいても逃げもせずに草の上で休んでいました。

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同じ庭の蜘蛛の網にかからないようにね。
(「蜘蛛」「蜘蛛の糸」等は夏の季語。)

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潮風に吹かれとぶもの秋の蝶  稲畑汀子
(しおかぜにふかれとぶものあきのちょう)

「よくわかる俳句歳時記」より。

ハンディ版 オールカラー よくわかる俳句歳時記 - 石 寒太
ハンディ版 オールカラー よくわかる俳句歳時記 - 石 寒太

稲畑汀子(いなはたていこ)氏は神奈川県生まれの俳人(1931-2022)。高浜虚子の孫にあたります。

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彼女については記事の中で何度も書きましたが,このコーナーで彼女の句を取り上げるのは初めてです。
個人的には金子兜太氏との俳句を巡るトークバトルが好きでした。

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夏の蝶ならちょっとした潮風に負けないくらいの力があったのでしょう。
ところが,秋の蝶になると,余力がないのか吹かれとんでいます。

「吹かれ飛ぶ」ではなく「吹かれとぶ」ですから自分では抗えないのです。
季語「秋の蝶」が持つ本質をしっかりとらえた一句ではないでしょうか。

稲畑さんが所属した伝統俳句協会では季語ではなく「季題」と呼んでいました。


では,英訳してみます。

潮風に吹かれとぶもの秋の蝶  稲畑汀子

A butterfly in fall
Was blown away by
A salt breeze



salt は「海水性の」の意味で,潮風は a salt breeze。
ん-,直訳です。


この記事へのコメント

2025年10月05日 07:01
おはようございます。

 これ、ヒョウモンチョウの一種のようですね。
 詩人は”秋の蝶”にわび・さびや世の儚さを見るのでしょうが、無粋な生物学者は、「夏眠から覚めた固体かな?」とか思ってしまいます(笑) ヒョウモンチョウの仲間は暑い夏の間に夏眠し、涼しくなった秋に活動を再開します。真冬でもちょっと陽が差すと飛ぶ固体もいますよ。
2025年10月06日 05:52
あきあかねさん
おはようございます。
なるほど,ヒョウモンチョウは秋が本番なんですね。まあ,俳句の世界では季語として大きく扱ってしまいますが・・・。
1つ思ったことがあり,雨の日に蝶が飛ばないのは,固体として経験で危険と知るのか,遺伝レベルで飛んではいけないと思うのか,おそらく後者かなとは思うんですが。